人類の星の時間
シュテファン・ツヴァイク著
片山敏彦訳

 
恩師のライグラフ先生と奥様は、私が本当にたまに良い演奏をすると、「今日は星の時間だった」と評してくださった。なんて素敵な褒め言葉だろうと感激していると、奥様が「シュテファン・ツヴァイクの作品よ」と囁かれる。何か星の瞬きのような永遠性を感じ、とてもロマンティックだと思い込んでいたものだ。
しかし、それから40年近い歳月を経て、ついにみつけたこの本を読んで悟った。そんな甘い話ではなく、歴史上本当に稀に現れる瞬間—、その永遠に刻まれるべき出来事を、ツヴァイク本人が、その人物達が乗り移ったかのように肉薄して語っているのだ。
登場人物は、ヘンデル、トルストイ、ドストエフスキー、ゲーテなどの芸術家、さらには南極探検のスコット大佐やナポレオン、そしてレーニンも登場する。
想像を絶する辛酸を経験した受難者のみに、歓喜の瞬間として現れる「星の時間」。また、悲劇には起因する出来事ゆえの結果の瞬間として、歴史に刻まれる。
ウクライナには、いつ星の時間が訪れるのか。その星の時間が、人類の平和と幸せに繋がっていることをひたすら祈る。

 

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